銀色の不快な隣人、シルバーフィッシュは、なにも日本だけの問題ではありません。彼らは、驚くほど広範囲に生息しており、世界中の人々の頭を悩ませる、グローバルな害虫なのです。シルバーフィッシュ(学名:Lepisma saccharina)は、その名の通り、元々はヨーロッパが原産とされていますが、大航海時代以降、人間の交易活動に伴って、船の積荷などに紛れ込み、世界中へと分布を広げていきました。今では、南極大陸を除く、すべての大陸でその存在が確認されています。彼らがこれほどまでに繁栄できた理由は、その驚異的な生命力と、人間の生活環境への高い適応能力にあります。彼らは、極端な乾燥地帯でなければ、どのような気候の場所でも生き延びることができます。そして、人間の住居が提供する、暖かく、湿気があり、餌が豊富な環境は、彼らにとって世界共通の楽園なのです。海外においても、シルバーフィッシュがもたらす被害は日本とほとんど同じです。図書館や博物館では、貴重な古文書や美術品を食害する、文化財の天敵として恐れられています。一般家庭では、壁紙や本、写真、そして衣類などが被害に遭います。英語圏では、彼らの主食がデンプン質であることから、「Sugar Lover(砂糖好き)」といった愛称(?)で呼ばれることもあります。駆除や予防の方法も、世界共通です。換気と除湿を徹底し、餌となるものをなくすための清掃、そして必要に応じて殺虫剤やベイト剤を使用する。ラベンダーやシダーウッドといった天然の忌避剤が好まれるのも、日本と同じです。国や文化は違えど、人間が紙や布と共に暮らす限り、この原始的でしぶとい昆虫との戦いは、これからも世界中で続いていくのでしょう。それは、私たち人類の文明と、常に隣り合わせに存在する、普遍的な課題なのかもしれません。