ある夏の蒸し暑い夜のこと、静まり返ったキッチンで喉を潤そうと電気をつけた瞬間、私の視界の端をカサカサと横切る不気味な黒い影があり、それがゴキブリが一匹いたらという仮定が現実の恐怖へと変わった忘れられない瞬間でしたが、それまで毎日欠かさず掃除をしていた自負があっただけに、その一匹の出現は私の潔癖なプライドを粉々に砕き、同時にまだ見ぬ大軍が壁の裏に潜んでいるのではないかという猛烈な不安に襲われました。私はパニックになりながらも手近な殺虫スプレーを手に取り、冷蔵庫の裏へと逃げ込んだその影を必死に追い詰めましたが、仕留めた後の虚脱感の中で頭をよぎったのは「この一匹はどこから来たのか」という疑問であり、私はその夜一睡もすることなく懐中電灯を片手にキッチンの全貌を調査し始めました。驚いたことに、普段は綺麗に見えていたキッチンのシンク下や什器の隙間を照らしてみると、そこには飛んできた埃とわずかな湿気が混ざり合った不衛生な空間が広がっており、一匹の個体が定着するには十分すぎるほどの「隙」が私の生活の中に存在していたことを突きつけられたのです。ゴキブリが一匹いたら、それは単なる不運ではなく、自分の住まいに対する管理の甘さを知らせる厳しい警告であり、私はその日から生活習慣を根本から変える決意を固め、生ゴミは一晩たりとも放置せず、すべての食材を密閉容器に移し、夜寝る前にはシンクの水分を一滴残らず拭き上げるという徹底した乾燥管理を自分に課しました。また、自分では完璧だと思っていた網戸や玄関ドアにわずかな隙間があることを発見し、ホームセンターで買い込んだパテや隙間テープで家中の「入り口」を埋めていく作業は、不快な侵入者から自分の聖域を奪還するための神聖な儀式のようにも感じられ、次第に恐怖心は自分の城を守るという強い意志へと変わっていきました。さらに、毒餌剤であるベイト剤を家中にある潜伏ポイントに戦略的に配置することで、見えない場所にいるかもしれない仲間までを一網打尽にする態勢を整え、一匹の出現をきっかけに私の家は以前よりも遥かに高いレベルの衛生環境へと生まれ変わることができたのです。あの日、深夜のキッチンで出会った一匹のゴキブリは、私に真の清潔とは何か、そして住まいを主権的に守ることの厳しさを教えてくれた厳しい教師であり、今では不快な影を見ることのない平和な日常を維持できていますが、あの黒いタイルの上で不気味に動いていた脚の感触を思い出すたびに、私は掃除の手を緩めてはいけないという強い戒めを胸に刻んでいます。
深夜のキッチンでゴキブリが一匹いたら私の絶望